ライフワーク・ルポ●第2回 荒野さん
車いすダンスの会「ハーモニー」
代表 千葉 京子さん
自信と前向きな姿勢、そして美しさ----
表現する喜びが自分自身を変えていく「車いすダンス」
ホールに華開いた、
新しい舞台芸術
 つないだ手を軸に、車椅子がクルリと一回転する。意外、とも思えるスピードだ。正面を向き、ポーズをきめた後、今度は自ら方向を変え、立位のダンサーと対峙して、次のステップへの間合いを計る。
 競技用の衣装に身を包み、メークを施した11名の車椅子ダンサー=ウィルチェア・ドライバー(Wheelchair Driver)が美しいメロディーに合わせて、ステージ狭しとダンスを披露する。その躍動感、華麗な動きに開場からは驚きと感嘆の声があがった。
 平成18年9月、札幌の公共ホールを借りて開催された「車いすダンスフェスティバル♪LOVE2006 車椅子Dance〜hoo〜」。千葉京子さんが代表を務める車いすダンスの会「ハーモニー」の7周年記念イベントだ。平成12年に、プロダンサーの千葉さんが中心となって発足した「ハーモニー」は、車いすダンスを障害者や高齢者のスポーツとして、また、障害者、健常者の区別なく楽しめるスポーツとして発展させることを目的に設立されたNPO法人日本車いすダンススポーツ連盟の札幌支部として活動している。
「設立7周年の節目にホールを借り、イベントを行ったのは、何よりも車いすダンスが舞台芸術としての表現が可能であることを証明したかったからです。多くの人にそのことをアピールするとともに、同じ障害を持つ方々に勇気を与えたい。また、踊る側にとっては、美しい音楽をダンスで表現し、それが人に感動を与えるという実感を得て、自信を持って車いすダンスに取組んで欲しいという思いもありました」
 動きに制約がある車椅子だけに、一般の社交ダンスにはない難しさがある。一方で、車椅子でなければできない動きや表現手法もあり、7年間の集大成として、会員それぞれが満足できるパフォーマンスをみせてくれた、と千葉さんは満足そうだ。
車いすダンス01 車いすダンス02
障害の種類、
程度に合わせて指導を行う
 車椅子ダンスの歴史は古く、およそ60年前にイギリスで生まれたとされる。この時のダンスは、車いす同士で踊るデュオ方式だったが、その後、ミュンヘン工科大学(ドイツ)のクロムフォルツ教授が健常者と障害を持った人が一緒に踊るコンビスタイルを考案・普及させた。ちなみに、立ち役の健常者をスタンディング・パートナー(Standing Partner)と呼ぶ。
 日本では、「ハーモニー」が所属するNPO法人日本車いすダンススポーツ連盟の前身である日本車いすダンス研究会が平成4年に発足。また、平成9年にシドニーで開催された国際パラリンピック委員会(IPC)スポーツ競技会と実行委員会の会議で、コンビスタイルでの車いすダンスがパラリンピック冬季プログラム種目として決定されている。
 社交ダンスと同様にスタンダード5種目(ワルツ、タンゴ、スローフォックストロット、ウィンナーワルツ、クイックステップ)、ラテンアメリカン5種目(ルンバ、サンバ、チャチャチャ、パソドブレ、ジャイブ)の計10種目で踊ることができ、車椅子の特性や障害によって調整を加える。
「当然のことですが、同じウィルチェア・ドライバーでも障害の程度は皆、異なります。ですから、その方に合わせて無理のない振り付けから練習を始めていくんです。ダンスは楽しい。そのことをまず実感として持てなければ、続きませんし、楽しさを知ってもらうことが一つの大きな目的ですから」
 社交ダンスの経験者ならともかく、身体がダンスに慣れていくまでは、相当な無理がかかる。筋肉痛などは当たり前だ。これは車椅子でダンスを踊る場合でも同じだが、最初から理想の形を求めて苦しい練習を始めてしまうと、楽しさを感じる以前にリタイアしてしまう。それでは本末転倒、というのが千葉さんの考え方だ。
 ダンスが好きで楽しければ、重度な障害を持っていても、素敵なダンスを踊り、表現することができます。美しくありたいという気持ちは、誰でも皆同じなんです」
ダンスの訓練がもたらす
リハビリ効果
 練習を重ね、車いすダンスの基本が身に付いていくと、今度はより高度な表現、難しい踊りがしたいと思うようになる。これは、ダンスに限らず、どんなスポーツにもあることだ。そして、車椅子ダンスの場合は、そのレベルに達していくと、さらに別の“効果”が顕著になると千葉さんは言う。
 「リハビリテーション効果です。車椅子で生活していると----座っている----姿勢が前屈みになりがちです。一方で、ダンスの基本は背筋をきちんと伸ばした姿勢。その姿勢を保つ訓練をしていくと実際にリハビリの専門家も驚くほど身体機能が向上していくんです。そうすると気分まで前向きになりますね」
 車椅子ダンスを始めて、最も顕著に変わる部分が、心理的な変化だという。「ハーモニー」のメンバーは、オシャレである。たとえば外出の際、立ち寄った飲食店の店員にも自分たちから気軽に話かける。すると、周囲の車椅子に対する目線がとまどいから優しいものに変わり、コミュニケーションが一気に広がる。これも、ダンスで表現するという経験を通して自信がついた現れだという。
 「障害者の方でも、普段からスポーツなどに親しんでいる人たちは、積極性があって社交的な方が多いです。きっと、練習や競技などを通じて人と接する機会が多いからだと思います。ただ、障害の種類や程度によって外出がままならないといった方の中には、コミュニケーションが苦手というケースも少なくありません。そうした方々にこそ、ぜひ車いすダンスを始めて欲しいな、と思うんですね。何よりも本当に楽しいですから。心が開きます。見学はいつでも大歓迎! まずは見に来てください」
車いすダンス03 車いすダンス04
「ハーモニー」のメンバーは現在、約10名のウィルチェア・ドライバーにスタンディング・パートナー、サポートスタッフを合わせて約26名。
 車椅子で踊ってみたいという人はもちろん、健常者にも数多く参加して欲しいと千葉さんは言う。もちろん、社交ダンス経験があってもなくても大歓迎だが、「車いすに乗った方と踊ってあげるといった気持ちではダメ。サポートが必要な場面はありますが、車いすダンスはあくまでも二人がフィフティ・フィフティで踊るもの。気持ちの面でも対等でなければダンスにはならないですから」。
 車いすダンスは、パートナー同士の親密な意志疎通、信頼関係が求められる。そして、息の合ったダンスを通して、お互いの優しさを再発見することができる、と千葉さんは話している。

「ハーモニー」
■連絡先
札幌市西区西野1条3丁目2-30-402
TEL・FAX011-671-3036
■練習日・場所
毎週木曜日 13:00〜15:30
札幌市身体障害者福祉センター
北海道札幌市西区二十四軒二条6丁目1-1
TEL011-641-8850

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