ワーキング・ルポ●第1回 荒野さん
NPO法人 地域生活きたのセンター ぱお
代表 荒野 耕司 さん
「自立支援」に必要なもの〜曲がり角の作業所と、その現状
「小規模作業所」から
就労移行支援事業所へ
「たとえば常時8名が通ってきていて、毎年、4名ずつ就職していく。作業による訓練をしてもらい、その適正を見極め、企業にアタックして4名が新しく入れ替わる。そんな流れがつくれれば、本人にとっても、先の見通し、目標のようなものが見えてきて、安心して通所できると思うんですよ」
 5年前に活動を開始した『NPO法人 地域生活きたのセンター ぱお』。直販部門を持つ小規模作業所とグループホームの運営を柱として、法人名にもあるように、障害者の地域生活支援と、そのための地域交流・連携に向けた活動を行っている。
 同作業所は、この4月から、障害者自立支援法(以下「支援法」)で定める日中活動の場のうち、訓練等給付にあたる“就労移行支援”と“就労継続支援B型”の二つの機能を持つ多機能型事業所へと移行する。このうち、就労移行支援の部分について、代表の荒野耕司さんが話しているのが冒頭のコメントだ。
 就労継続支援のB型というのは、一般企業での就労が困難な人に働く場を提供するサービスで、これまでの作業所・授産所に類似した内容。ちなみにA型もあり、これは事業所と通所者が雇用契約に基づく就労を前提としたもの。制度の改正により、たとえば一般法人が別組織を立ち上げて通所者と雇用契約を結び、就労の場を提供するといった取り組みが期待されている。
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最優先の課題は収入のアップ
業務のボリュームを増やしたい
「新たな事業所名の前半にある“就労移行支援”というのは、まさに就労を目指す、いわば職業訓練的な意味合いです。期限は2年間。2年間で一般企業等に就職させることが原則となっています。その後についている“就労継続支援”は、障害の程度などによってすぐには就職できない人たちに、作業所などでの就労を継続させようというものです」
 たとえば、2年間での就労は難しいため、当初は就労継続支援の枠組みで働くが、社会性を含めたスキルが身に付いた段階で就労移行支援に切り替えるということも可能だ。逆に、就労するだけの技術などはあるものの、年齢的に体力面で就職が難しくなれば就労継続支援として作業所に通うという考え方もできるという。
 ただし、と荒野さん。
「就労移行支援に関しては、作業所をいわば職業訓練所と捉えれば、一割の利用者負担は妥当と言えなくもないでしょう。けれども、就労継続支援は、それでは違和感が残る。なぜかと言うと、国の解釈によれば作業所で働くことは“就労”ということになるわけですが、どこの世界にお金を払って働きに行く人がいるでしょうか。それに、もし就労というなら、そこでの収入が生活のベースにならなれければ本来、おかしいですよね。ところが、作業所での工賃レベルは、利用料の一割負担分に満たないケースが少なくないんですよ」
 支援法のもとでも、従前の作業所という形が認められないわけではない。ではなぜ、荒野さんの作業所は、新しい事業所へと移行するのか。
「障害者の自立、地域生活を推進するという法律の趣旨からいけば、今後、従来の作業所への補助金等が減っていく方向にあることはまず、間違いないでしょう。ある意味、これは当然かも知れません。工賃はおろか、スタッフの待遇も二の次というなか、サービスの質・量を増やしたいと考えれば、ちゃんとして報酬が入る新しい事業所にせざるを得ない。それと、就労移行の制度については私たちも以前から国に要望してきたことです。その実効性を高めるためにも、取り組む必要があると考えたわけです」
 一割負担というジレンマを抱えたままの新制度ヘの移行、そのなかでの最優先課題は、現在の業務内容のボリュームをアップし、少なくとも持出しになることがないようにする“企業努力”だと荒野さんは話す。
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増えつつある障害者向け求人
マッチングさせる支援が急務
 作業所などに通う場合の利用者負担と同時に、事業者への報酬支払いの枠組みも変わった。これまで前年実績に基づく固定額だったものから、その日の利用者数に応じた日払い方式に変更され、利用者が休んだ場合は、その分だけ報酬が減少することになった。そして、一割負担の導入によって利用を手控えるケースが増える傾向にあるなか、このままでは事業が立ち行かなくなるとして、報酬を補てんする施策が現在、採られている。入所施設についても、同様の動きがある。
「これは一見、真っ当に見えますが、実は支援法の意義の後退を示すものだと思います。これまでの枠組みの事業所・作業所ではなく、社会に出て働くという環境を作ることで自立につなげるというのが支援法の意図だったはずです。その視点からみれば、措置的な意味合いの強い通所・入所施設は縮小していくのが自然なはずなんです。現在の支援策は、本来の趣旨に逆行しているともいえると思うんですね」
 利用者の一割負担についても、その軽減策を盛り込む市町村が増える中で、広く浅く均等に負担してもらうという趣旨が崩れつつあり、それならば従前の応能負担でもよいのでは、と荒野さんは話す。
「負担して利用するべきサービスと、そうでないものがあるはずなんですね。たとえば、障害によるハンデを埋めるために利用するものは無償で保証し、それ以上のプラスアルファを求めるなら、その一部を負担する。生きるために必要なものは、それは生きる権利として提供されるのが当たり前でしょう。今の制度では、ハンデが多い人ほど多く負担しなければならないんです」
 就労についても同じ、と荒野さんは言う。働くことは憲法で保証された権利だ。そして、そこで得る収入で生活する。自立支援というからには、これを原則とする必要がある。ただ、障害によって、企業が望む働き方、障害を持たない人と同様の仕事はできないかも知れない。それならば、労働に見合った賃金とする代わりに、生活が成り立つ水準にするための補てんを行えばいいのではないか。
「年金として支給するのではなく、基本は働くということをベースに、賃金補てんをする。働くのに人的なサポートが必要なら、それを公的に賄う。そんな仕組みが理想ですね」
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荒野さんの作業所で請負っている仕事は、ダイレクトメールの封入など下請け作業のほか、マンション清掃、草刈り、除雪など。さらに紙製のテープをつかったクラフト(エコバンドクラフト)といった手工芸品の製作も行い、隣接の雑貨店で販売、なかなかの人気を集めている。
「このうち、マンションの清掃など、外で行う仕事は比較的収入もよく、同時に職業訓練としても効果的なので、こうした仕事を、しかも直接請負できるようなケースを増やしていきたいというのが、あらたしい事業所への移行を控えての最重要課題ですね」
 そしてその先には、実際の就職支援があるわけだが、障害者の雇用に関しては労働行政上の指導強化もあって、求人数に関しては着実に増えている、と荒野さん。
「求人としては身体障害者を対象としたものが大半で、知的・精神障害は少ないのが現状です。ただ、少なくとも以前に比べれば間口が広くなってきたことは確かです。雇用を検討するために、実習という形で受入れを検討してくれる企業も出てきたんですよ」
 身体障害であれば、できる作業、任せられる仕事内容が比較的見えやすい。また、たとえば車椅子への対応などハード面の処置もしやすい。ところが、知的・精神障害になると、初めて障害者の雇用を考える企業にとっては不安も大きいのが現実、という。
「だから、情報提供を含めて、障害者と企業をうまくマッチングさせるための支援体制が、今後は何よりも大切になると思っています」
 そして、それぞれの状態に合わせて働くこと。それが当たり前という環境づくりことが、今、求められているといえそうだ。
■NPO法人 地域生活きたのセンター ぱお
平成14年に、自らも障害(自閉症)のある子どもを持つ荒野さんが自費で設立。障害者の就労支援を柱に、小規模作業所とその製品などを販売する雑貨屋、グルーホームを運営。就労や福祉・権利などに関する相談、子どもから高齢者まで地域住民が集まって体験学習を行う「寺子屋 ぱお」など多彩な活動を行っている。ちなみに、これまで5年間の活動のなかで、7名の障害者が食品関連、清掃業、木工業など一般企業に就職、定着して活躍しているという。
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