ワーキング・ルポ●第2回 シュリーの店
障害者雇用、30年の歩み
まごころのリペアショップ
『シュリーの店』
技術を身につけ、接客もこなす。職人技の肢体障害者が切り盛りする靴、傘、合い鍵の店
創業31年、札幌市の
福祉モデル都市事業として設立
札幌に暮らす人なら、きっとどこかで目にしている、さらには利用したことがあるのではないだろうか。家や車の合い鍵づくり、雪道用の靴底を貼ったりヒールの踵を直したり、傘や鞄のちょっとした修理にと、実に重宝する。大型スーパーなどにブースを構える『シュリーの店』は現在、札幌市内に17店舗。その名前は、知らない人はいないと言っていいだろう。
 修理道具や工作機械、皮革や合板などの素材に接着剤。合い鍵は1000〜1200種類が揃う。それらが整然と並んだ店舗で働くのは、全員が障害を持つ人たち。そしてすべての従業員が修理作業のプロフェッショナル、まさに職人技の技能と豊富な知識を持つ。17店舗のほとんどが、1人店舗。接客、相談、修理、さらにメンテナンスのアドバイスも行うバイプレーヤーなのだ。
「修理作業は高度な技術が必要になると同時に、力仕事も少なくありません。そうした業務の性格上、おおむね下肢障害の方に限られてしまいますが、本格的な障害者雇用の場としての実績には自負を持っています」
『シュリーの店』を運営する(財)さっぽろシュリーの大味幹雄所長が話すように、今年で32年目を迎えた同財団の活動は、全国的に見ても先駆けであることは間違いない。
 (財)さっぽろシュリーの前身である(財)札幌福祉作業所が創設されたのは昭和51年。前年の50年には国連で「障害者の権利宣言」(国際連合の障害者の権利に関する決議)が決議され、国も福祉政策を打ち出した。これにいち早く呼応し、福祉都市宣言を行った札幌市の「福祉モデル都市事業」として設立されたのが同作業所だ。
“身体障害のため一般企業に雇用されることが困難な方に職場を提供し、自立させることを目的とする”。これを設立の趣旨として公立民営でスタートした同作業所には、市が出資するとともに、本部の人件費や機械の減価償却費をはじめ運営費を補助。設立前夜、たまたま札幌に靴修理の優れた機械を扱う代理店があったことから、その作業を核としたサービス業、しかも技能が身に付く仕事ということで、事業としての採用が決まったのだという。
技能を身につけ、
店に立つやりがいを知って欲しい
札幌の繁華街、ススキノの入口にある百貨店・松坂屋(現・ロビンソン札幌店)に第一号店を構えた『シュリーの店』は、札幌市と関係者の全面的なバックアップにより、オープン早々から顧客がつき、順調に業績を伸ばした。
 靴修理などの技術は、件の機械の代理店から技術者がやって来て、一つひとつ教えてくれた。以降は、先輩から後輩へと受け継がれている。とはいえ、就労経験のない障害者が社会に出るには、一般で考える以上の困難も伴う。障害の程度やそれぞれの家庭事情、さらに自宅からどうやって通勤するのか、できるのかといった事情を面接で細かく相談にのり、働く意思を確認したうえで、まずは店舗と同じく修理部門を備える本部に臨時社員として受入れ、訓練を積む。およそ3〜6カ月に及ぶ見習い期間だ。
「専門技能に加えて接客技術など、一朝一夕には身に付きません。先輩の仕事を見て盗む、といった職人的な部分もあります。ただ、やる気さえあればきっと一人前になれる。店舗の営業時間、休日は出店する百貨店やスーパーに合わせるため、年中無休、正月も営業というケースもザラ。シフトを組んで運営するため、常に新しい人材を求めているんです」
 募集はすべてハローワークの求人票による。下肢障害があり、店舗の仕事に興味のある人ならいつでも大歓迎と、大味所長は呼びかける。これまで、従業員は男性ばかりだったが、最近は女性の採用も積極的に行っているという。現在『シュリーの店』で働く従業員は合わせて約35名。技術を身につけ、自分で店を切り盛りする楽しさとやりがいを、ぜひ知って欲しい、とは大味さんの言葉だ。
丁寧できれいな仕事に定評、
外に向けた活動も進める
 創業以来、順調に売上を伸ばしてきた『シュリーの店』だが、平成4年をピークに減少に転じ、現在もその傾向が続いている。合い鍵はともかく、100円ショップでも傘が買える時代。さらに何年も大切に履く高級靴から、短いサイクルで履きつぶすというように、消費傾向も変わっている。修理してまで使うことが少なくなってきたことも、売上の低下に拍車をかけている。
「創業当時の工作機械を、メンテナンスしながら使っていますが老朽化は否めず、そうしたコストも考えると経営は楽ではありません。ただ、以前ほどのボリュームではないにせよ、需要は確実にある。そういう業種です。新たな展開も視野に、営業努力を続けているところです」
 創立25周年を迎えた平成12年以降、『シュリーの店』は、これまでの“待ちの営業”だけでなく、外に向けた展開をスタートする。札幌市の消費者まつりやリサイクルフェスタでのチラシ配りに始まり、翌年には靴修理感謝デーの設定、母子生活支援施設での修理奉仕なども開始した。9月2日を「九・two(くつ)」ともじって独自の「靴の日」を設定、修理の半額セールを行う靴修理感謝デーは現在も、市民から好評を得ている。また、従業員がボランティアで参加する奉仕活動は、ともすればお世話される側という認識をもたれがちな障害者が、社会貢献に積極的に取組む機運と意識を高めたという点で、計り知れない効果を生んでいるに違いない。
 合い鍵づくりや靴・鞄の修理は他業者も数多く手がけている。ただ、『シュリーの店』は、積み上げてきた技術の伝承による丁寧できれいな仕事に定評がある。「修理なら、あのスーパーに入っている『シュリーの店』に」と決めている市民も多い。そこにはすでに、障害があるかどうかといった違いは、まったく感じられない。
 リサイクル、リユースが盛んに喧伝される今、時流という観点からも『シュリーの店』の先行きにエールを送りたい。
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■(財)さっぽろシュリー
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